シルクうなぎ
開発ストーリー

“観光荘らしい、
岡谷らしいうなぎを
食べていただきたい”

“常に品質のいいうなぎをお客様に提供したい”

きっかけは、そんな当たり前の想いからでした。

全国でも有数のうなぎの消費量を誇る「うなぎのまち岡谷」。

その岡谷で、まだ天竜川でやなと呼ばれる仕掛けで、うなぎを採っていたころより続くうなぎ料理専門店、やなのうなぎ観光荘かんこうそう

創業より六十余年、伝統を守りながら、常に挑戦を続けてきたうなぎ屋の新たな挑戦が「シルクうなぎ」です。

岡谷らしさ、
“シルク+うなぎ”という発想

長野県岡谷市は、「うなぎのまち」としても有名ですが、古くからシルクの一大生産地として名を馳せ、世界的にも“SILK OKAYA”と呼ばれるほどでした。

当時の製糸技術の高さは、その後の精密機械産業の隆盛にも名残を見せ、「シルク」はいまも岡谷の大切なアイデンティティのひとつとなっています。

“岡谷らしさ”とは、つまり、“うなぎ”であり、“シルク”である。

その2つをどうにか一緒にできないものか。

思い至ったのが、「蚕のさなぎをブレンドした餌でうなぎを育てたらどうか」という発想でした。

うなぎの餌に蚕をブレンド

シルクの原材料である、かいこのさなぎは、天然由来で栄養豊富な桑の葉を食べて育ち、昔から郷土食としても親しまれてきました。

蚕のさなぎは、良質なタンパク・良質な脂と、高タンパクで栄養価が高く、血糖値の抑制等の健康効果も期待されています。

つまり、蚕のさなぎは栄養豊富な食品であり、良質な飼料でもあります。岡谷のある諏訪湖周辺でも、蚕のさなぎは鯉の生簀いけすなどで餌として利用されていた歴史もあります。

岡谷市内には、現在もシルクの製造を行う製糸会社があり、シルクの文化と歴史を今に伝えるシルクファクトおかやというシルクの博物館もあり、観光地として、また子どもたちがシルク文化を学ぶ場として人気です。

そのシルクファクト内に会社を構える株式会社宮坂製糸所さまに協力を仰いだところ、蚕のさなぎを仕入れさせていただけることになりました。

シルクの糸をとった後の蚕のさなぎは、一部が食用として出荷されるものの、年間1.5tも廃棄されいます。選りすぐった良質な蚕のさなぎを“シルクうなぎ”の飼料として活用することにより、「飼料としての新しい価値」を見いだすことにもつながればと思っています。

シルクそのものは繊維質のため餌に混ぜることができないので、蚕のさなぎに残ったシルクの膜を剥離し、乾燥させ、粉末化することで、初めてうなぎの餌にブレンドすることができます。

蚕のさなぎの製粉化にあたっては、おとなり諏訪市の株式会社髙山製粉さまにご尽力いただき、良質な蚕の粉末が出来上がりました。

うなぎ料理店と養鰻家、前代未聞のタッグによるオリジナルブランド国産うなぎの開発

「蚕のさなぎを餌に育てたオリジナルの国産ブランドうなぎを作りたい!」と立ち上がったプロジェクトですが、うなぎの養殖は、非常に難しく、行うには環境や設備に加えて、長年積み重ねた経験と技術が必要です。

うなぎの道はうなぎ。ここは養鰻家ようまんか(うなぎの養殖を行うプロ)に依頼しなければなりませんが、全国的に見ても、一うなぎ料理店が生産者さんに直接お願いした前例はありませんでした。

そこで、いくつかある観光荘の仕入先のひとつの養鰻家、夏目商店さまにご相談しました。

夏目商店さまは、良質なうなぎの産地である愛知県豊橋市でうなぎの養殖をされていて、豊橋百儂人にも認定されています。普段より、観光荘で提供しているうなぎを仕入れさせていただいています。

しかし、「うなぎ屋と養鰻家が一緒にゼロからうなぎを育てる」という、前代未聞の依頼。

加えて、うなぎは高級食材で、国産うなぎの養殖に使用する天然のうなぎの稚魚はとても高価なもの。

通常、魚粉と魚油を練り合わせた餌で育てるところに、蚕をブレンドして与え、もし失敗したら双方にとっても大きな損害となってしまいます。

夏目商店さまよりいただいたお返事は、――「快諾」。

もちろん様々なハードルやリスクはあるものの、プロジェクトにご賛同いただき、ともにオリジナルのブランド国産うなぎの開発に乗り出すことになりました。

しかも、夏目商店さまのある豊橋もかつてはシルクの産地で、その昔うなぎの餌に蚕のさなぎを与えていた!というお話を伺い、シルクうなぎの可能性とご縁を感じざるを得ませんでした。

コロナ禍のなか、プロジェクトが本格始動

2020年春、世間が未曾有のコロナ禍にあるなか、プロジェクトはスタートしました。

2月、稚魚の育成がスタート。まずは通常の餌である程度の大きさになるまで、うなぎを育てます。

3月には、うなぎ生産量の見込みに合わせ、宮坂製糸所さまに蚕のさなぎを揃えていただきました。

4月には、乾燥させた蚕のさなぎを、高山製粉さまにて粉末化。

5月より、夏目商店さまにおいて、実際に蚕の粉をブレンドした餌をうなぎに与えはじめました。

本来は、観光荘のスタッフも現場を訪れ、うなぎの成長具合の確認や、現場のお手伝いをしたかったところですが、緊急事態宣言などもあり、夏の間はお伺いすることは叶わず、リモートで餌やりの様子などをご報告いただきました。

養殖の経過では、蚕をブレンドした餌への食いつきもよく、順調に育ち、心配していた問題も特に起きませんでした。

夏目商店さまからは、むしろ「蚕を与えていない通常のうなぎよりも強い気がする」、とのお言葉をいただきました。

待望の池あげ

2020年10月、うなぎが出荷できるサイズに育ち、いよいよ待望の池あげ(うなぎを養殖池からあげること)の段取りとなりました。

観光荘スタッフも現地に駆けつけ、池あげに参加。

まずは養殖用の池から、小さな生簀にうなぎを移動。専用の木枠の上を滑らせ、うなぎのサイズを選別。

最終的に池上げされたのは1.6t。

実に5,676匹ものシルクうなぎが池上げされました。

観光荘では、シルクうなぎのプロジェクト以前にも、社員研修として、養殖の様子などを見学させていただいていましたが、実際にスタッフが作業をお手伝いさせていただくことは今回が初めてでした。

池の温度管理や、清掃、餌あげのタイミングなどのノウハウ、それらに付随するかなりの重労働。生産者さんの仕事を間近で見て、実際にやってみて、おいしいうなぎを使わせていただけていることへの感謝と思いがさらに高まりました。

初めての試食、緊張の一瞬

池あげされたシルクうなぎを、夏目商店さまの加工場をお借りして、初めての試食。

蚕をブレンドした餌を食べて育ったうなぎは、どんな味になるのか。

香り、味、食感はどうか。

観光荘と夏目商店さま、双方にとって緊張の一瞬でした。

これは、――おいしい!

心配していた臭みなどは一切なく、むしろ魚臭さも普通に養殖したものより少ない。

脂もよくのっていて、食べごたえがありながらも、くどくない。

初めは強張っていた両社長の顔も、食べ進めていくうちに、すっかり緊張がほどけ、笑顔がこぼれました。

美味しいうなぎができた、そのことにすっと安堵しました。

蒸さずにじっくり炭火焼きおいしさをそのままに
真空パック

観光荘では、活きたうなぎを背開きし、その後蒸さずに、創業より継ぎ足してきた秘伝のタレにくぐらせて、じっくり炭火焼きします。

一匹一匹手作業によってさばかれたシルクうなぎは、観光荘で炭火でじっくり焼き上げ、おいしさを逃さぬよう真空パックしました。

通販での発売開始に先駆けて、メディア向けの試食会、また店頭での限定販売でも、普段から観光荘をご贔屓いただいているみなさまより高評価をいただきました。

誰よりも観光荘のことを知るスタッフのみなも、

「美味しい」「肉厚」「ふわふわ」「あっさり」「脂が上質」「シルクの様」

と、自信を持っておすすめできるうなぎとなりました。

作りたかったのは新しい挑戦により生まれる
新しい価値

シルクをイメージしたパッケージに包まれ、2021年1月29日、寒の土用の丑の日にシルクうなぎは正式販売スタートとなりました。

紆余曲折を経て、誕生した「シルクうなぎ」。

初のオリジナルブランド国産うなぎの開発には、多くの試練と、それに勝る多大なる協力がありました。

「おいしいものをつくる」ことはもちろんの命題でしたが、わたしたち観光荘のルーツであるこの「岡谷」という土地、「うなぎ」という食文化、そしてそれに関わる多くの人々がいて出来上がった「シルクうなぎ」という新しいブランドうなぎは、ただの商品ではなく、この先も研鑽を重ねることにより、この地に根ざす文化として価値あるものに醸成していきたいと思っています。

「シルクうなぎ」のシンボルマークは、シルクの繭とうなぎ。

おぼろげなその色合いも合わせて、夜空に浮かぶ月にも見立てています。

いつしか夜は明けて、新しい一日が始まる、新しい価値が生まれる。

一うなぎ屋のつくった「シルクうなぎ」が、そんな新しい価値をみなさまにお届けできればと願っています。